足だけ…

もう２０年以上経つと思います。友人が行きたいケーキ屋さんがある、そこのケーキは卵アレルギーの子でも食べられるのよ、と言いました。へぇ～そうなの、とついていくと、パティシエールに見覚えがある。お互い「誰だっけ？」という顔をして一瞬固まって、「あれぇ！」と思い出しました。クラスは違うけれど、大学の同学年でした。彼女のフランス語の恩師は私の人生の恩師。それから何度か先生と一緒に訪れました。

学生時代も、お店で再会してからも、お互いのことをそれほど知っているわけではないのです。でも、何となく心にあって、父が亡くなってから一人で彼女を訪ねました。父のことを伝えながら、私はひとしきり泣いて、彼女のケーキを食べて、何かこざっぱりした気分になって笑って帰りました。

去年の新盆にクッキーが届いて一年たちました。お店は海の近く。お茶したあと、久しぶりに海に行きました。波が引く時のカラカラと石を洗う音がまだ耳に残っています。足だけ海水浴してお店に戻ると、彼女がアイスティーを淹れるばかりにして待っていてくれました。