

新しい暮らし(29-1)
退職の日、お昼に送別会もしていただいて、お花もいただいて、普通に勤めきることができました。それは、当たり前のことだけど、私には精一杯。綱渡りでようやく向こう側にたどり着いた感じでした。 よくやったね、と言ってくれた友人もいたけれど、多くは「そう…」とちょっと残念そう。私はと...


次の準備(28-2)
生まれて初めて財テク本を手に取りました。銀行に行けば、お得な金融商品があるかどうかチラシをチェックするようになりました。証券会社にも行って「株って、結局何ですか?」と尋ねることから始めました。不動産物件の広告も初めて関心をもって見ました。ニュースの最後、日経平均も為替も意識...


次の準備(28-1)
在宅で介護度4の父を一人で支えながら正社員として働く、この生活を続けることの厳しい現実を知って、私は頑張る方向を変えることを決めました。 仕事を辞める。でも一つ条件をつけました。 父が亡くなっても自分がたちまち困ることがないように準備ができたら、仕事をやめる、そう決めました...


方向転換(27-9)
収入があるということを定石と思っていました。だから、仕事を手放すまいと必死でした。けれど、私は仕事を頑張っているのではなく、仕事に出かけるために頑張っている。仕事の面白さも、同世代で働く環境を楽しむ余裕もありませんでした。...


方向転換(27-8)
父と私が笑って暮らす。楽になる。 それは時間に追われない、介護サービスは利用するのであって、依存しない、ということでした。 父と二人暮らしになったその年は、仕事と生活の変化に加えて、いろいろなことが重なり、本当に苦しかった。しかし、2年目にあの苦しさはありませんでした。ケア...


方向転換(27-7)
ある日突然、父が倒れ、母は帰らず、待った無しのてんてこ舞い。 緊急事態のような日常から一向に抜け出せない。 一生懸命頑張っているのに楽になるどころか、どんどん苦しくなっていく。 頑張る方向が間違っている、そう思いました。...


四半世紀
四半世紀前、大学時代の友人と三人でドイツに行きました。 往復の航空券とホテルだけ。ドイツ在住の友人と合流するのは旅の後半。それまでは、自力でフランクフルトからロマンティック街道を南下してローテンブルク、ミュンヘンまで行き、ノイシュバンシュタイン城を見てハイデルベルク。そこで...


方向転換(27-6)
今思えば、父こそベルトコンベヤーに乗せられていたのでした。 自分の生活がわけもわからず動いていく。いいも悪いも言うこともできず、朝迎えが来ればそれに乗せられ、ヘルパーさんがくればお風呂に入る。行きたくて行くのでも、入りたいから入るのでもない。...


方向転換(27-5)
家も仕事もあっちもこっちも四方八方、綱渡り状態になっていきます。 目が覚めている間中、早く!早く! 「早くしなきゃ」 「早く行かなきゃ」 「早く帰らなきゃ」、 とにかく、ずっと早く!早く!早く!! 黄信号は加速して渡り切る合図でした。...


方向転換(27-4)
あの頃、父は夜3回くらいトイレに起きました。 「お父さん、必ず起こしてね」 父はきっと私に声をかけたのです。でも、私はくたびれ果てて、その声に反応しない。だから、父は一人でトイレに行こうとします。でも、ゆっくりゆっくりしか歩けない。真冬、自分で上着も着られない。寒いし、トイ...